GAMO NEWS、今号のテーマは、春の匂いを意味する「Scent of spring」。カバー&ヴィジュアルを手がけていただいたのは『Cocoon』のVAN氏。闇夜で人知れず咲く花のように、危うげな色香を放つ、叙情的な作品。人とのセッションで創り上げていくプロセスも必見です。
「春」というキーワードを意識したのは布の色味ぐらい。全体の作風として、いわゆる春っぽい、ただ明るい色にはしたくなかったのです。光と闇、相反するもの。今、こういう気分。実は僕自身が今、葛藤している時期だから。27年目になる美容師人生の中で最大にブレているかも…(笑)。1周、2周、3周してきて、何が良いのかマイ ブームが出にくくなっているのかな。でも、それをネガティブに捉えるのではなく、アンニュイな感じをそのまま出してもいいのかなと思いました。今回、セッションす るにあたり、初めて組むカメラマンの吉祥丸さんにも、当スタッフにも「僕の予定調和をぶち壊してくれ」と伝えました。自分たちの感覚でいいから、意見を言ってほしいと。しかし、全てライブだと“行き当たりバッタリのなっちゃった作品”になってしまいがち。ある程度、自分の好みに偏り過ぎないところで描いたイメージを一度、創り込んでおいて、そこから壊し、あるべき姿に精査していきました。
表紙の作品
中面の作品(右)
中面の作品(左)
カットは、マッシュとベリーショートです。ベリーショートのほうは、根元を黒く残して毛先だけブリーチして金髪に。マッシュショートのほうは、その逆に根元をブリーチして金髪にしています。写真にはあまり写っていませんが、仕込みはたくさん入っています。写らないところは、「どうでもいい」ではなく、写らないところも「きちんと創る」。きちんと創ったからこそ、壊していっても形が残る。
今回の撮影は自由度が高かったので、色々なアイデアを皆で考え、様々なアイテムを準備して臨みました。付け毛も、現場で変わっていくことに対応できるよう、部分用のもの、つむじ部分の1周と2周、3周のもの。ハーフになるものまで何パターンも用意。綺麗なものと汚れたもの、そういう相反する感じをイメージしていたの で、春っぽい色のアクリル絵具も用意しました。
最初に創ったものは、アクセントで顔にテープを貼ったり、部分のウィッグをつけたり、サイドにフィンガーウェーブを作ったりしていましたが、テストカットを見たら、盛り込み過ぎ、頑張り過ぎで、なんかオシャレじゃないなと…(笑)。最終的には全部引いて、仕込みでカット、カラーしたヘアスタイルに戻しました。結局、今回は10用意したうちの1しか使っていません。でも、その引き算が逆に美容師として最低限度のサロンワークのところに戻った感じ がして良かったですね。
最初に創ったものは(お蔵入りしましたが…笑)、僕がモデルさんたちの良いところを出せていなかったのですね。今回は表紙だからとか、場の期待感とかプレッシャーとか色々考えてしまうと「何かやらなきゃ」と思って、頑張ってしまったのかな。頑張り過ぎてしまうことで、目の前の人の良さがわからなくなることもある。今回は、それでモデルさんたちの良さが消えてしまっていた。途中で気づけたから良かったと思います(笑)。
壊すことは勇気がいります。一度作り込んだものを元に戻すのは難しいからです。でも、0(ゼロ)に戻すことができるのも、ある種のスキル。どこまで崩していいのか。どこがキレイかを精査するのは絶対、予定調和だけではできないこと。今の僕は、予定調和をアンチとしているけど、予定調和もスキルだし、それを壊すのもスキルなのだと思います。
今回のセッションでは、カメラマンさんやスタッフに方向性だけを伝えていました。東西南北で言うならば、「西に行きたい」ということだけを伝えて、それぞれが自分の思う西の行き方で意見をくれて、ちょうど良くクロスするところを どう見極められるかというプロセスでした。進むべき方角はテーマとして決めているからこそ、同じ方向を向きながら違う意見が 出し合える。だからこそ最終的に全員一致で、鮮度の良いところ、ピタッとくるとこ ろがあったと感じています。
僕はこの先も、キャリアや役職で先生と呼ばれるより、みんなと同じ美容師でいたいと思っています。いつも若いスタッフたちと同じトラックの中で走っていたいという感じはある。スタッフのやっている事も真似ないなんて言っていたら止まってしまうから、やり方を教えてもらって素直に真似る。 これからも、皆にどんどん影響されていきますよ。まだまだ自分は上手くなれると思っていますから(笑)。
今、SNSで自己ブランディングをすることに力を注いでいる若い美容師さんが増えていますよね。そういう時代だし、ブームだし、拡散という意味で影響力は大きいから否定は全くないし、むしろ、やったほうがいいとも思う。でも、雑誌媒体や世の中の認識も悪いんだけど「フォロワー数が全て」みたいな考えに なってしまうことに対しては、少し危惧しています。
つまり、自分は何屋(サロンワーカー)かということを忘れてほしくないのです。美容師という受け皿(技術)がないと何も始まらない。 例えキッカケは作れても続きがない。デジタルの情報の中にではなく、サロンワークの中に「基礎」の全てがあります。それは、どこのお店にもある。
美容師はこの先どこまで行ってもデジタルにはならないアナログな仕事。たとえ、AIが型を創れるようになったとしても、型をはめるだけでは「何かが違う」というところまでは気づけないはず。そこは人間の温度を持ってやらないと気づけないことで、 サロンワークの毎日でしか絶対に培われないことなのです。そこをやらなければ、本当にAIに持っていかれるでしょう。
今のあり方では、美容師として誰もが残れる時代ではなくなると思います。でも、サロンワークをきちんと体に入れて。デジタルとアナログを上手に行き来できる人は強いと思うので、ブームに侵されずに頑張ってほしいと思います。
COVER LOOK BY VAN_Cocoon HAIR / VAN(Cocoon)
MAKE-UP&FASHION STYLING / KAEDE ONO、CHINO(Cocoon)
PHOTO / KISSHOMARU SHIMAMURA
MODEL / YUKA SEKINE、SAKURAKO YAO
Cocoon代表。1972年生まれ、長崎県出身。都内2店舗を経て2009年4月にCocoonをオープン。現在、サロンワークを中心に一般誌、業界誌、セミナー講師を務めるなど多方面にて活躍中。お客様一人一人の持つ骨格、毛流れや髪質に合わせて素材を活かした『ノンブ ローカット』に定評があり、月500人の顧客を持つ。トレンドを交えながらも再現性の高いヘアスタイルに多くのファンが集まる。
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