ガモウニュース5月号 撮影の舞台裏 黒須 光雄氏(ウツワ utuwa)

Making Cover LookMay.28.2021

GAMO NEWS、今号のテーマは『Authentic』。カバー&ヴィジュアルを手がけていただいたのは、数々のフォトコンテストで受賞暦多数。クリエイティブワークが注目を集めている『ウツワ utuwa』の黒須 光雄さんですシンプル+αを追求したデザインをお楽しみください。

黒須さんがイメージする「Authentic」とは
—テーマAuthentic」からイメージしたことを教えてください

ウツワ utuwaのコンセプトは「シンプル+α」なのですが、僕自身もヘアデザインをする時に心がけていることのは、ものすごく突飛なことをやるというより、ベーシックを中心に+αとしてエッジを効かせる、特徴を活かすものを入れるということです。Authenticは「本物」という意味合いですが、僕は「シンプルなところにAuthenticは宿る」と思っています。今回もモデルさん自身が魅力的に見えるようなヘアデザインを意識し、いつも通りにデザインをした感じですね。

当初は公園でのロケーション撮影を予定していました。モデルさんの向こう側(日常)が見える作品に落とし込みたかったからです。しかし、強風のため途中で断念。気持ちを切り替えてスタジオで撮影しました。今できる状況の中で一番良い落としどころを探っていく、上手くいかないと思ったら壊していくこともクリエイションには大事だと思います。女性像は可愛くて、ちょっとモードで、ちょっと個性的。そこをベースに各モデルさんのパーソナリティーに合わせて展開をしていきました。


表紙の作品


中面の作品(右)


中面の作品(左)

カット、ヘアカラーのポイント
—カット、ヘアカラーのポイントについて教えてください。

まずオレンジのヘアカラーのモデルさんですが、アウトラインは高めに設定してワンレングスに、あえて厚みを取らない重いボブです。それをクセっぽいパーマで動かしていて、少しクラシカルな外国の女優さんのイメージで作っています。彼女は、エッジの効いた感じの子で、ちょこちょこ可愛い要素もあるので、クラシカルでガーリー、でも少しエッジィな要素を入れた「甘辛」なヘアデザインに落とし込みました。切りっぱなしでパーマもかけているボリュームのあるスタイルなので、カラーは透明感のあるキレイなオレンジで軽さを出しています。

次にブルーのヘアカラーのモデルさんは、アシンメトリーのウルフスタイルです。もともと髪が柔らかく動きが出やすいのですが、さらに動きの出やすいカットにしています。ヘアカラーは3人とも透明感を出そうかとイメージしていたのですが、全員が柔らかく透明感のある感じの色だと締まらないし、もともと可愛いらしい印象のモデルさんなので、アルカリカラーでブルーグレイのような感じを作り、顔まわりだけ彩度の高いブルーを入れて締まった印象にしています。

パープルのヘアカラーのモデルさんも、もともと可愛らしいタイプの子なので、その可愛らしさを活かし、フラットなボブにフラットな前髪でスクエアボブのような感じのスタイルにしようと思いました。ただ、それだけではクラシカルでガーリーな印象になりやすいので、インナーは全部刈り上げてタイトなシルエットにし、前髪も同じくタイトにして、カラーも寒色寄りのパープルにすることで甘くなり過ぎないようにしています。


モデルに何色を使うか、そこから考えていきます
イメージを構築する時のプロセスを教えてください。

このモデルならこの色を使いたいと最初に全体の色を決めます。そこからバランスを考えて、その色を衣装に使うのか、ヘアカラーに使うのか、メイクに使うのかを考えていきます。例えば、パープルのヘアカラーのモデルさんの場合、衣装をパープルにするとクールに寄り過ぎてしまうので、今回はヘアにパープルを使うことにしました。その人の中にどのぐらいその色の要素が必要かを考え、分量を設定しています。

誰でも好きな色やよく着る服の色があると思います。僕はサロンワークでもお客様に好きな色を必ず聞き、そこからヘアデザインを起こしていきます。ピンクの服が好きなのであれば、ヘアカラーはピンクを活かす色に。いろいろな色の服を着るのなら、それにぶつからない色。ビビットな色の服なら負けない色の方がいいのか、調和がとれる色の方がいいのかを考えます。そのようにトータルバランスを考えていかないと、ヘアだけが一人歩きをしてしまい、可愛い髪型にしてもフィットしません。周りの友達からも不評だったということに繋がります。クリエイションも人がモデルなので、同じこと。モデルさん自身に似合いそうな色、好きなファッションやメンタリティー、キャラクターも含めたトータルバランスを考えています。

僕はクリエイションとサロンワークは分けて考えていません。クリエイションはサロンワークよりも少しデフォルメしたデザインにしようとか、もう少し踏み込んだヘアカラーにというアプローチはしますが、クリエイションだから特別なデザインを作ろうという意識はなく、軸の部分は何も変わりませんね。


美容師は自信を持って提案することが大切
Instagramでもクリエイション作品を発信されていますが、お客様の反応は?

SNSのクリエイション作品を見て、こういうデザインや雰囲気が好きだと思って来てくれるお客様がほとんどなので「お任せ」が多いですね。しかし、大人のお客様も多いので、デザインの効いたスタイルばかりではないのですが、「本当は変わりたいけど、提案をしてくれる美容師さんがいない」「変えたいと美容師さんに言えない」というタイプのお客様が多く来ていただいています。

僕は結構、踏み込んだ提案をします。例えば、僕がこんな前髪なので「前髪が浮いちゃうのだけどショートバングにしたい」というお客様がめっちゃ来るんです(笑)。ある程度、関係性のあるお客様であれば、前髪に厚みがある人なら一線だけ刈り上げるとか、そういう攻めた提案もありだと思っています。

特にパーマが似合わないと思い込んでいるお客様は多いですね。以前、失敗したことがあるとか、前の美容師さんに言われたとか、自分でうまく扱えないと思っています。そういう方にこそ僕は提案しますね。美容師は自信を持って提案することが大切。「今はこういう掛け方があって、こういうお手入れの仕方があるので、ご自身でもスタイリングできるようになりますよ」という感じで、きちんと説明をしてお客様に納得してもらえば、リピートをしてくれるお客様は多いです。

美容師側もリスクはあったとしても常にチャレンジをしていかないと、お客様もいつも同じでは退屈だと思います。美容師が「これは似合わないですよ」とか「これはできないですよ」と言うとお客様はトラウマになってしまいますし、デザインの幅も狭まってしまいます。美容師側に置き換えると自分のビジネスの幅を狭めて、お客様の楽しみを奪ってしまうことになるのです。とにかく良い方法を探す。そういった提案力やテクニックもクリエイションで養われていくものだと思っています。


自分のウリや得意を見つけたかった
—黒須さんがクリエイション活動を始めたのはいつですか?そのきっかけは?

本格的にやり始めたのは6、7年前。27、28歳ぐらいの時ですね。僕は割とオールマイティーに何でもできたので、自分のウリや得意なもののイメージが付いていませんでした。お客様に言われればできるけど、僕は先ほどの話のように、自分から提案ができるタイプではなかったのです。だから、何か自分の得意を見つけたいと思ったのがクリエイションを始めたきっかけでした。

あと、今回、GAMO NEWSの表紙をやらせていただき、ものすごく嬉しかったのですが、媒体でビジュアルを手掛けたかったという理由も大きいです。クリエイションを始めてからは、色々な出会いもあり、活動が広がっていった感じですね。



クリエイションは基本、スタッフ全員で参加
—今回は多くのスタッフ様にアシストしていただきましたが、サロン内でもクリエイションは推奨されているのですか?

今回はサロンが休みなので、全員ではありませんが、ほとんどのスタッフがヘルプで来てくれています。今はコロナ禍なので人数を制限しなくてはいけない現場もありますが、平時は全員で取り組むことが多いです。でも、強制ではなく、自主的に来てくれています。採用でも、今までのクリエイション作品を見てくれて、「自分もクリエイションをやりたい」と入ってきたスタッフばかりです。皆、すごく意欲的だし、頑張っているなと思います。

今、若い世代はクリエイションをやる人とやらない人に分かれているので、やりたい子は逆にチャンスかなと思います。その世代ならではのクリエイションをやっていってもらえたらいいと思いますね。


漠然としたイメージしか共有しません
—アシストしてくれるスタッフと作品のイメージをどのように共有されているのですか?

基本的にメイクやアシストをしてもらうスタッフには、漠然としたイメージを伝えるだけです。色が決まったら、「こういう色のバランスでいきたい」とか「こういう構成でやりたい」とは何となく伝えますが、直前まで多くの情報は与えません。なぜなら、「自分だったらどうするかな」と考えてもらい、僕の発想にはないものを出してもらった方が、新しいものが生まれると思うからです。特にメイクはそうですね。

食い違いは、めちゃめちゃありますよ(笑)。本当に違う時は「違います」と言います。でも、基本的にチームで撮影をしているので、僕がどういう風に持っていきたいか、漠然としたイメージからでも見えてくるものがあるのかなと思っているのです。スタッフも「これは違うな」とか「これはいけるな」という判断が養われていくので、任せても大丈夫なことが多いですね。

衣装はいつも自分たちで用意をしています。衣装を選ぶ時は色と素材感とサイズ感、女性像など色々な要素を重要視していますが、常時、色々なテイストの服を集めていて、撮影の時はできるだけたくさん持っていくようにしています。決め打ちで持っていって、撮ってみて「なんか違うね」だと、そこで終わってしまうので、振り幅を持たせて準備をするというのは毎回、撮影で心がけていることです。


若手スタッフが活躍できる環境を作りたい
—コロナ禍で先を読みづらい時代ではありますが、今後のヴィジョンはありますか?

若い人が思うデザインとか、若い人が思うかっこいい、可愛いを発信していける環境を作りたいと思っています。ウツワ utuwaとしてのブランディングがあるので、それに付随した別ブランドになるのかはまだ分かりませんが、若手が活躍できるような環境を作りたい。店舗が増えることも視野に入れて考えています。今、こういう時代だからこそ、物事を後ろ向きに考えても良いことはないと思うし、前向きに進めていきたいと思っています。

楽しく夢中になれることを見つけて
—最後に若い美容師さんにメッセージをお願いします!

美容師は「仕事」なのですが、何か一つでもボジティブに「これは楽しいな」と思って取り組めることがあると、もっと伸びるのではないかと思います。僕の場合は、それが撮影やクリエイションでしたが、「僕はケアが得意」とか「私はシャンプーが得意」でも何でもいいと思うのです。夢中に勝るものはなくて、頑張ることよりも夢中になっていることの方が絶対に身になり、武器になります。「頑張る」は折れてしまうかもしれないけど、とにかく楽しくて「夢中」になってやっていると、気づいたら上手くなっているということがあると思います。

GAMO NEWS_vol.99 from GAMO on Vimeo.

COVER LOOK BY
Mitsuo Kurosu_ウツワ utuwa

HAIR/Mitsuo Kurosu(ウツワ utuwa)
MAKE-UP/Tsukamoto Maki(ウツワ utuwa)
ASSISTANT/Tatsuya Imai、Naho Tanaka 、Rena Maeda、Takumi Hamada、Hikaru Oyama、Keisuke Ito(ウツワ utuwa)
PHOTO/Shota Umetsu
MODEL/IKEGAMI、 UEHARA、MIKA

黒須 光雄氏
栃木県出身。山野美容専門学校卒業。utuwa代表。都内2店舗を経て、2019年4月、東京/高円寺にutuwa〔ウツワ〕をオープン。 シンプル +αの少しエッジが効いたデザインを得意としている。 ミルボン DA-PHOTO WORKS 2019、DA-INSPIRE LIVE 2019 東京にてデザイナー賞を受賞。2017、THA  REALITIVE DESIGN DESIGNERS PRIZE 受賞、2018、THA  REALITIVE DESIGN DESIGNERS PRIZE 受賞、2017年、2018年 JHA NEWCOMER OF THE YEAR ノミネート。 2020年 JHA JAPAN HAIRDRESSER OF THE YEAR ノミネート。 
https://utuwa-hair.com

 

 

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