GAMO NEWS今月号のテーマは『Sensual』。カバー&ヴィジュアルを手がけていただいたのは、ナチュラルなスタイルにエッセンスをひとさじ加えたスタイルで支持を集めている武田 雅俊氏。テーマに着想を得て、どこか“色っぽさ”のある女性像を目指したという創作の裏側を聞きます。
テーマ『Sensual』を
上品な色っぽさと翻訳
—テーマを聞いたときの第一印象をお聞かせください。どのように作品に落とし込みましたか。
『センシュアル』は直訳すると「官能的」という意味をもちますが、ファッションでいうと上品さが思い浮かびます。人によってさまざまな捉え方ができる単語ですよね。なので、単語そのものがもつ意味とファッション的なイメージの両方をあわせて、“上品なエロさ”を表現できたらと思いました。
一方、その上品らしさをヘアスタイルで表現したらどうなるだろう…と考えをめぐらせましたが、なかなかイメージがわかず、ストーリーを持たせてみることにし、演出や背景を考えました。
—ヘアデザイン、メイク、ファッション、それぞれの絵作りのポイントを教えてください。
さまざまな人物像を考えるなかで、年齢や性別を取り払って純粋にヘアを考えてみました。多様性が叫ばれる時代でもありますし、ストレートヘアもいれば、パーマヘアも、くせっ毛の人もいます。いろいろな髪質がありますが、どれもその人の個性。それらを髪の毛で表現しました。なので、2人のモデルを起用して、1人はくるくるのくせ毛っぽいパーマスタイルに、もう1 人はストレートタッチのスタイルに。撮影だからといって、サロンワークでこれまで作ってきたものとは方向性の異なる奇抜さを提案するのは違うと思っているので、ナチュラルをベースにどんな要素をプラスするかを大切にしながらスタイルを決めました。
ファッションでは男性的な要素を入れてみたり、はたまた女性的な要素を入れてみたり。幅広いスタイルの衣装を用意しました。そして、メイクはスタッフにやってもらうことにしました。まずはモデルありきで考えてもらい、さらにファッションに合わせて、どんな印象・雰囲気になるのか。ライブ感を活かしながらメイクをやって欲しいと伝えました。
—撮影のときのライブ感を大切にしているのはなぜですか。
事前に決め込んで撮影本番に臨んでも、その通りに行くことはほとんどありません。現場の雰囲気やカメラマンさんとの呼吸、モデルさんのテンションなど、その場にしかない要素がたくさんあります。なので、その場、その場のライブ感を受けて、撮影が進む中で絵を固めていくことで、より良いものができると考えています。
—武田さんが思う“上品な色気”はどのように表現しましたか。
上品か、そうじゃないか。色気があるか、ないか。受け取り方は人それぞれ違うと思いますが、僕が思うに、上品な色気とは艶っぽさです。ドライな質感よりも、艶のある束感に色気を感じると同時に上品さも感じます。このポイントは外さないように、束感と艶感を意識してスタイルづくりをしました。
—モデルはどのように選びましたか。
テーマに合うかどうかと、今回に関しては少し引いた画角で撮りたかったので、身長の高いモデルが衣装も映えるかなというところで探しました。そういった部分では、衣装ありきで撮影の準備を進めていったともいえます。
自分の“やりたい”が
満たされたからこそ
後進の育成に力が入る
—そもそも武田さんが撮影をするようになったきっかけを教えてください。
アシスタントとして入社したサロンが業界誌から一般誌まで、幅広く撮影を担当させていただいているサロンでした。アシスタントとして現場に行き始めたのが一番最初のきっかけです。スタイリストデビューしてからも、お声がけいただいて、撮影をするようになりました。当時は雑誌全盛期で、月に20~ 30本の撮影をしていました。
時代が変わって、雑誌の撮影が減って、今は撮影よりもSNSに意識が向いている若手も多いと思います。もちろん、それはそれでいいと思います。ただし、自分の作りたいものを作って、撮影するだけでは、スタイリング力や似合わせはなかなか磨かれません。少しでも撮影に挑戦してみたり、先輩の作るものを近くで見るというのはやっておくと良いと思います。
—撮影をするときのイメージはどこから湧いてくるのでしょうか。
デザイン力がもともとあるとは思っていないので、飛び抜けて奇抜なデザインを作りたいとは思っていません。そもそも僕のデザインに奇抜さは求められていないとも思いますし、ナチュラルに少しだけインパクトがあるデザインが好き。そしてそれが一番ヒットしてきたとも思うんです。なので、基本はナチュラルを軸に、何かワンポイントを加えようとデザインを考えています。
—2013年に独立されてから3店舗を経営されています。表参道、青山に続いて、全く異なるエリアの蔵前に出店したのはなぜですか?
初めて蔵前に足を運んだときに、街の雰囲気や空気感が純粋に気持ちのいいところだなと思いました。その時点では自分が出店するとは全く想像もしていませんでした。2 店舗を立ち上げて、スタッフもお客様も年齢を重ねる中で、だんだんと表参道や渋谷がしっくりこなくなってきた感覚もあって、もう少し地域密着型で近い距離感でサロンができたら面白いと思ったんです。自分が気に入っている雰囲気に蔵前という土地はマッチしています。
—実際のところはどうですか。
思っていた通りですよ。僕はお酒が好きなので、仕事帰りにふらっと飲みに行くと地域の人と仲良くなれることも多いんです。今までにはなかった人とのつながりができました。そんな温かい街です。
—これからの武田さんの展望は?
かつては表紙をやりたいとか、撮影をしたいとか、若いがゆえに“この仕事をやりたい”がありました。ありがたいことに今ではやりたかったことを一通りやらせてもらったと思っています。なので、今日みたいな表紙の仕事の依頼がくるスタッフを育てていきたいというのが願いですね。
—次世代のスタッフのみなさんに期待ですね。これからの美容師さんに必要なことはなんでしょう。
どんな時代も技術力と接客力は必要ですが、今はそれに加えて発信力も必要です。どれか一つが欠けているとお客様にファンになってもらえません。その中でも根本は、技術力とサロンワークの接客力。その上でコミュニケーション能力が高いと、息の長い仕事ができるのではないでしょうか。お客様に対しても、スタッフ同士でも、人対人の仕事なので、相手の気持ちを理解する能力を高めていってもらいたいですね。
COVER LOOK BY
Elme_Masatoshi Takeda
MAKE-UP:Akari Kawasaki(Elme)
STYLING:Nanao
ASSISTANT:Yua Kosuda(Elme),Kotaro Hizuka(Elme)
武田 雅俊氏
1980年、京都府出身。国際文化美容専門学校卒業。都内3店舗を経て、2013年表参道に『Elme』をオープン。16年に青山に新ブランド『Sii』を立ち上げる。21年には蔵前に出店し、現在は3店舗のオーナー兼スタイリストを務める。各界の著名人からの信頼も厚く、的確な技術とアドバイスで多くのゲストを魅了している。
東京都港区南青山 3-14-4 YTK南青山B1F
https://elme-tokyo.com/
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