離職率が高いとされている美容業界。 美容師が一生涯、仕事を続けていくためには 働きやすく、働きがいを感じることができる環境を 整えていく必要があります。 美容師のサステナブルな働き方について 一石を投じている企業・団体様に お話を伺い、ともに考えていきます。
Theme #08
ゆりかごから墓場まで
生涯美容師として働ける環境づくり
理美容業界で課題とされる離職率の高さや、復職の難しさ。サロンワーク以外で、理美容の技術を生かして働くことができたら、解決の一助になるのではないでしょうか。3つの事業を軸に、理美容師の柔軟な働き方と活躍の場を創り出す、株式会社あっとほーむ取締役専務の小山 悠樹氏にお話を伺いました。
株式会社あっとほーむ 取締役専務
小山 悠樹氏
中学卒業後、理容師として愛知県・名古屋市のHIBIKIグループに就職。2009年に地元三重県に戻り、2010年に株式会社あっとほーむを設立。同年、エンディングカットの提供をスタート。
訪問理美容から納棺事業へと派生
人生の節目に寄りそう美容の仕事
─事業展開の経緯を教えてください。
小山 父に「訪問理美容事業を始めないか」と言われたのが一番のきっかけです。名古屋から地元に帰って父の営むサロンの新事業として訪問理美容事業をスタートしました。訪問理美容事業は「訪問理美容きれいや」という屋号で、日本理美容福祉協会の三重中部センターとして活動しています。スタッフはサロンに出勤するのではなく、自宅から個人宅や老人ホームなどに伺って、カットやカラーを行います。1日に1人で1～5軒20日程度稼働すると、一か月でサロンで働くのと同等、もしくはそれ以上の売り上げを立てることができます。
また当社では理美容師さんに向けて訪問理美容のセミナーも実施していて、受講者は年間200名以上。主な受講の理由は次の3つだと分析しています。1つ目はサロンビジネスの停滞感から新しい事業を手がけたいから。2つ目は独立したいけれど店舗を構えるのが難しいから。3つ目は純粋に社会貢献がしたいから。僕もサロンの休日に老人ホームでのボランティアカットに参加したことがありましたが、楽しいからとか、社会貢献というよりも、どちらかというと給料とは別に稼げるからという動機もありました。そういったことからサロンビジネスではない、違う形の商売ができると考えています。
─加えて納棺事業部を立ち上げた理由を教えてください。
小山 美容は生まれて初めてのファーストカット、七五三、入卒業式、成人式など、みなさんが人生の節目で 必ず利用するサービスです。そして高齢化社会の中で、訪問理美容が広まりつつあります。その延長線上に納棺事業部はあります。ファーストカットがあるように、人生最後の身だしなみを整えるエンディングカットはあって然るべきです。「ゆりかごから墓場まで」という父の想いを受け継いだ事業なのです。
─葬儀の際に身だしなみを整える職業として、納棺師が思い浮かぶ人も多いと思います。
小山 われわれが行うエンディングカットでは、理美容師の技術を生かしてカットやカラー、ヘアセット、メイク・ネイルまで行うのが特徴です。ご遺族の要望に応えて、生前に楽しむことができなかったおしゃれを叶えたり、その方らしさを再現します。家族の大切な最期のお見送りをサポートする1つのサービスです。
訪問理美容の仕事をしていると、お客様に「最後はあなたに切ってもらいたい」と言われることがあり純粋に嬉しく思います。この体験はサロンで働いていてもなかなか得られないものでしょう。当社が掲げる「生涯美容」というキャッチコピーは、訪問事業、納棺事業を通じてお客様に生涯にわたり美容を提供するという想いがあります。
さらに働く理美容師にとっても“生涯理美容業に携わってもらえる”ような会社でありたいという思いがあります。訪問理美容はサロンワークに比べて時間や場所に融通が効きますし、本人の要望にそえるようにシフトを組むこともできます。エンディングカットはやや特殊な仕事かもしれませんが、理美容の技術を生かして働く選択肢として可能性を秘めていると考えています。
お客様と理美容師
双方にとっての「生涯美容」の実現へ
─今年はヘアサロンの展開も始めますね。
小山 abs（アビス） groupを立ち上げ、2月に愛知県東海市に『Hair Salon hiro』をオープンしました。続けて5月末には三重県桑名市に『onkan』をオープンします。いわゆる皆さんが思い描く理美容師として華やかな仕事ができる場所であり、若くて志のあるスタッフに期待しています。当社が共同経営というフランチャイズでオープン費用の一部を出資します。店舗名も自由に決めてもらえるので、独立を視野に入れている人のサポートもできると考えています。
僕の美容人生を振り返ると、10代からヘアサロンで働き、20代で訪問理美容の道へ。そして現在は訪問理美容と並行してエンディングカットも行っています。全事業部で総勢45人のスタッフに支えられています。
理美容師を目指す人は自分自身が美しく、カッコよく、活躍する華やかな仕事に憧れを持っていることも多いと思います。ですが、色々な経験を積む中で、身体的・精神的に挫折して、理美容師として働くことが困難になることもあると思います。そんな時にサロン以外でも理美容の技術を生かして働くことができたら、ポジティブですよね。自由を求める人たちを集めて、いかに秩序ある環境を保つかが僕の仕事です。
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